キーンと耳の中で響くたびに視野が狭くなる気がした。
耳鳴りは初期症状。記憶のなかの父が顔をしかめた。
意を決して脳神経外科を受診し、トンネル型の医療機器のなかに横たわる。祖母も父も叔母も姉も同じような行程を踏んだのだと思った。
画像に写った右の聴神経の微かな膨らみは家族の証だと思った。
だから仕方ないのだと、そういうことなのだと。
再検査を告げられてから不安になるたびに『すそいおん』。
声に出したり出さなかったり、兎にも角にもひたすらに。
再検査中、夢をみた。
そして係の人から「動かないでください」と注意された。
目を開いて『すそいおん』。
白い壁に囲まれて、わたしは笑った。
再検査の画像を見る。
左右の聴神経は同じ形をしており、右の聴神経の膨らみは消えていた。
ずっと半信半疑で使っていた『すそいおん』。 もしかしたら今もそう。
それでも『言葉』を使う。
感情など一切機能しない世界と、わたしはまた出会うのだろう。
水傘(東京都/30代)